冬の走り方のバイブル

2005/8/25

ノリノリ伝説外伝 第5話  〜ブルーマウンテン〜  小説

店長:「なんで隠してるの?」

「ブルーマウンテン」では、店長と音波の両親が音波が走り去って行くのを見送りながらそんな会話をしていた。

父親:「特に理由はないんですけどね。まぁ、危ない乗り物だから」

店長:「鈴木さんからそんな言葉を聞くとは思わなかったなぁ〜(爆笑)」

店長の大爆笑がガレージに響き渡った。そんな店長を見ながら、父親はただニヤニヤしていた。

母親:「あれ?工場長は?」

ガレージを見渡しながら母親は店長に問いかけた。

店長:「あ〜、須田君ね。ほら、あそこ・・・・」

そう言って店長が指差した先には、女性客に囲まれている一人の紳士がいた。
「ブルーマウンテン」工場長、須田である。
年齢は、既に40歳を越えているが、高い身長と優しい口調で、この店では工場長でありながら売り上げはTOPである。

店長:「あいつ、もてるんだよね〜。お客さんもあいつ指名なんだよね。ここはクラブじゃないんだから・・・」

苦笑しながらも、店長の思いは打算的である。実質、彼の売り上げ額はすごいものであり、加えて整備士としての腕も一流とくれば、
支店での売上高、引いては、店長の評価アップにもつながる人材である。

店長:「それはそうと、まだ持ってんの?【あれ】」

母親:「もちろん持ってるわよ〜。見つからないように大事にね♪」

父親:「そろそろ復活させたいんで・・・。持ってくれば整備、大丈夫ですか?」

店長:「もちろん!!最近は、【あの年代】ものは整備してないから、こっちも楽しみだよ」

母親:「あの〜、私のもやってくれるよね〜」

店長:「え〜、どうしようかなぁ・・・・。なんてね。冗談、冗談。謹んでやらせて頂きます」

第三者が聞いたら、まったく意味不明な会話を3人は延々と続けていた。
店内では、須田工場長が、いまだ終わらぬ女性客の対応をせっせとこなしていた。
ふいにこちらに目線を送った工場長に、父親は会釈、母親は投げキッスで対応した。
一瞬、昔を思い出したような表情を浮かべた工場長は、軽く会釈を済ませると、熱く見つめる女性客に少々戸惑いを感じながらも
接客に勤しんだ。

店長:「そう言えば、今日、蒼野さんの娘さんも納車だったんだよ。」
思い出したように店長は、音波の両親にそう告げた。

母親:「へぇ〜。優里香ちゃん来たんだ。蒼Pは?」

店長:「来なかったよ。でもあの子も綺麗になったよね〜。良かったね、奥さんに似て(笑)」
ガハハハ笑いながら店長はそんな悪態をついた。

父親:「いよいよ【来るべき時】がきたか・・・」
ぼそっとつぶやいた父親に、母親は少しだけ冷たい視線を送りながら「何言ってんだか」と
言いたげな表情を浮かべた。

新緑の5月。新たなる世代の登場は、止まっていた運命の歯車を回し始めるきっかけとなる。

(つづく)
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2005/8/23

ノリノリ伝説外伝 第四話  〜始動〜  小説

店長に続いてガレージ前に姿を現した音波。自分の物になるバイクを前にして、いつもは比較的クールな
女の子である音波も、少しだけ頬が紅潮した。
専門学校時代にも、支給されたバイクを散々乗り回していたが、それはやはり「もらい物」バイクであり、
どこかで自分の物ではない、という意識が働いていた。
しかし、今度は違う。アルバイトとはいえ、自分で稼いだお金で自分のバイクを買う。

店長:「じゃあ納車説明しますね〜。」

そういって、ソニックを前に店長は説明を始めたが、整備士免許を持っている音波にとっては、
特に説明を聞くまでもないような内容ばかりだった。
ただ、それを言ってしまうと、店側が楽をすることになる為、音波はあえて何も言わずに説明を聞いていた。
こういうところには、妙に厳しい音波であった。

説明をうわのそらで聞きながら、音波はソニックをまじまじと見つめていた。
スペックは雑誌やインターネットで調べてあったので、特には気にならなかった。
ただ、デザインとカラーリングは、実物で見ると非常に美しい。
カラーリングは、ヤマハお得意の赤系統で、これは昔からの伝統ともいうべき色あい。
普段のファッションから音波は赤系統を好む。とういうよりは、母親が小さい頃から赤い服ばかりを
着せた為、自分で服を買える年頃になって他の色の服を買ってもどうにもしっくりこなく、
結局赤系統の服に落ち着くといった感じだった。

(さぁ〜て、どこに走りに行こうかな♪)

そう思ってソニックと供に駆け抜ける自分を想像しながら、同時にライディングのイメージトレーニングも欠かさない。
非常にコンパクトな車体、大きさで言えば、20年以上前に絶滅した2ストロークバイクとさして変わらない車体である。

(こういうバイクはスピードのせてコーナーに入らないとダメよね。ヤマハのバイクは旋回性が高いから・・・・)

そんなことを考えながらふと目をやると、父親がしゃがみこんでリアタイヤの辺りを見ていた。

音波:「お父さん、何見てるの?」

父:「へぇ〜、最近はこういうのが流行なんだな。グリップは・・・」

そう言いかけた部分で、母親が話にわって入った。

母:「んもぉ〜!そんな知ったかぶってもだめよ〜。」

そう言いながら、自分の夫の頭をポカっとたたく。
父親から「グリップ」なんて言葉が出てくるとは思ってみなかったが、捨てた雑誌にでも目を通したのだろう、
特に気にも止めることなく音波は、ソニックを見回した。

店長:「じゃあこれで一通りの説明はすんだんで。何か質問あります?」

音波:「オートシフターは解除してくれました?」

店長:「あ〜、解除しときましたよ!珍しいですよね。女の子でオートシフター解除するなんて」

(まったく、いまどき女の子がどうのこうのいう人間がまだこの世にいるとはね)

心のうちで、どうにもこの店長とは合わないなと感じ始めた音波は、同時に、この店長と付き合っていたという
自分の母親の心境が分らなかった。

音波:「ありがとうございました。じゃあ、これで・・・・」

そう言って音波はヘルメットを被り、そそくさとバイクにまたがった。
バイク自体も小さいのだが、音波にとっては足つきなどはまったく関係なかった。
この時代のライディングジャケットやパンツは流行としては、体にタイトフィットするものが主流で、
女性ライダーが増加したこともあり、レディース専門のジャケットメーカーや、一流ブランド物の
ライダーズジャケットすら存在していた。
音波も例にもれることなくタイトフィットなスタイルのジャケットをパンツを着ていた。

メインカードをスターターに差し込むと、自動的に中にカードは吸い込まれていく。
メーター周りがライトオンされ、操作パネルにシステム起動のサインが表示された。
スタートスイッチを押すと、エンジンは始動。
一昔前のバイクのように「キュルルル・・・ボン」というようなエンジンのかかり方はせずにスイッチと同時に
エンジンは始動される。

「ヒュルルル・・・」

消音効果抜群のマフラーからは風切り音のような音しか聞こえてこない。
軽くアクセルをあおってもその音はほとんど変わる事はない。

母親:「気をつけなさいよ〜」

どことなく気のない声をかえた母親と相変わらず寡黙な父親に手を振り、
どうにも気の合わない店長にメット越しに軽く会釈をして、音波はソニックのギアをローに入れた。
クラッチをつなぎ感触を確かめながら音波は「ブルーマウンテン」を後にした。

(とりあえずは軽く牧の原にでも走りに行こうかな)

慣らし運転など必要でなくなった2025年のバイクであったが、初めて乗るバイクということで、
さすがの音波も慎重になっていた。
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2005/8/18

ノリノリ伝説外伝 第三話   〜疑惑〜  小説

1週間後、YM−400RRソニック(以下、ソニック)の納車に、音波は再び「ブルーマウンテン」を訪れた。
時代と供に趣味は多様化されていったが、幸運なことに、再びバイクブーム到来をいったほど二輪業界は活気づいていた。
一つには、免許制度の改革。普通二輪免許を取得すれば、どんな排気量のバイクにも乗ることができる。
もっとも、メーカーが大排気量車を生産しなくなっていた為、そんな理由はお題目に過ぎないが、
二輪業界の活性化の大きな要因は、女性ライダーの大量発生が上げられる。

就職自体は女性にとっては相変わらず困難ではあったが、ひとたび入社して実力を認められれば、男女に関係の無い報酬がまっている。
この時代、ほとんどの会社は年棒制をとっており、業績さえあげればそこには男女の壁は無いに等しい。
その代わり、女性にとっても男性とまったく同じ業務を命じられる事が当然となっていた。

完全自立が可能となったこの国は、さらなる婚姻率の低下と少子化は大問題だったが、更にアクティブに生きる女性が増えた事により、
市場自体はにわかに活気づいた。
その波は二輪業界に波及した。
SSマシンの開発戦争ばかりが取りざたされた2010年。雑誌には過激なスペックが踊り、道行くマシンにもレプリカマシンが増えたが、
実情は、それらを購入していた世代は、当時の30〜40歳の世代であり、若者は、ビッグスポーツスクーターや、新規開発されたギアチェンジ無しの
SSマシンに乗ることが常になっていた。
その30〜40歳の世代の人間は、2025年には、既に50歳を超えている。若い男性層は、楽をすることばかりを考えたが、女性は違った。
難しい事にチャレンジする。かつては難しかった女性の自立が成し遂げられるこの時代、軟弱な男性ライダーとは違い、女性ライダーは、
こぞってSSマシンの購入に走った。

この日、音波が訪れた「ブルーマウンテン」にも多くの女性ライダーが訪れていた。
多くは、音波よりも年上に見えたが、どの女性も非常に聡明で明るい印象を受けた。
音波のバイクは既に納車待ちでガレージ前にピカピカに洗車されて、主が乗る瞬間を待ちわびていた。
直ぐにでも乗り出したい衝動を抑えて、とりあえず支払いを済ませる為に店内へと足を運ぶ音波だったが、どうにも表情は冴えなかった。


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一時間前のことだった。

音波:「じゃあ、バイク取りに言ってくるから〜」
母親:「あれ、今日納車なりか?」
音波:「(「なりか?」って・・・あんた一体いくつだよ)そうだよ。早めに納車してちょっと走りたいし・・・」

まったく50歳にもなってなんて喋り方・・・。音波は心の中でそう毒づいていた。前々から思っていたのだが、この「なり」をつけて
話をしだす母親が、高校を過ぎた辺りからどうにも気に入らなかった。

母親:「ふーん、じゃあ納車式やらなきゃね。お母さんも行くから♪」

母親の突然の申し出に音波はかなり動揺した。

音波:「別に来なくていいよ〜。だいたいバイクになんて興味ないんでしょ?」

母親:「いいじゃん、いいじゃん。あ、お父さん、一緒に行くよね?」

奥でニュースを見ていた音波の父親にも、母親は同行を求めた。

音波:「ちょっと〜。なんなのよ、一体?高校の卒業式にだって来なかったくせにぃ」

父親:「そうかぁ。今日が納車かぁ。じゃあ皆で行こうか」

父親までもが同行するいう事実に、音波は軽い眩暈を覚えた。
とは言うものの、現地まで歩いていくのも面倒だとは思っていた。両親が同行すれば、確かに現地までの足代わりになる。
打算と妥協の産物において、音波は両親の同行を渋々OKした。

母親:「何着てこうかしらね〜♪」

鼻歌交じりで服装を決めている母親を完全無視して、車に向かった。

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店内に入ると先日応対してくれた店長が音波を迎えてくれた。

店長:「いらっしゃい!!今日が納車でしたよね!!」

こないだよりも妙にテンションが高い店長を若干ではあるが、音波はうっとうしく感じた。

店長:「じゃあ、こちらが支払い明細で・・・・」

そんな音波の感情を無視して、店長は納車手続きの説明を延々続けた。
支払いに現金を渡し、「じゃあ、現車での説明をしますね」と言ったところで、店長は思いもかけない一言を音波に告げた。

店長:「ご両親はバイクに乗ってるの?」

音波:「は?親は二人ともまったくバイクの事なんか興味無しですけど。なのに今日、ついてきちゃって・・・」

そう指差した先には、音波の両親が、まるで付き合いだしたばかりのカップルのように、ベタベタしながらバイクを見ていた。
そんな姿に音波は失神しそうになってしまったが、その両親に向かい、店長は更に信じがたい言葉をかけた。

店長:「あ〜!!久しぶりですね〜!!」

音波:(久しぶり???知り合いなの?)

店長に呼ばれて、両親はちょっとだけギョッとしながらも軽く会釈した。

音波:「うちの両親と知り合いなんですか?」

店長:「知り合いも何も・・・・」

母親:「あ〜、志井部さん久しぶりじゃーん。元気だった?高校以来からかなぁ」

店長:「はぁ?」

母親:「音波、この人はね〜、お母さんの初めて付き合った人なのよん♪」

店長:「何言って・・・」

そう言いかけた店長に向かって、母親の横にいた父親が、音波に見えないように唇に人差し指をあてて「シィー」というポーズをとった。

母親:「もう何十年ぶりかね〜。あの頃は・・・」

このパターンは延々昔話になるな。そう悟った音波は横から口を挟む。

音波:「お母さん!その話は後にしてよ。納車遅れちゃうよ」

母親:「そうね〜、そうよね〜。じゃあ志井部さん、あとでね♪」

店長:「はぁ・・・。あ、じゃあ外にもう乗れるばっかになってますので、そちらに・・・」

そう言って店長は気まずそうに外に音波を案内した。
店長の後に音波も続いた。音波の両親も続いた。

音波:「ちょっと〜!いい歳なんだからベタベタしてないでよ〜」

母親:「いいじゃない!いくつになっても初心忘れるべからずよ、ね、あなた♪」

父親:「・・・・」

音波:「そう思っているのは母さんだけみたいね」

母親:「音波も早く彼氏でも作れぼぁ〜」

懐かしアニメ特集でちょっとだけ見たキャラのモノマネ口調で喋りかける母親。音波には無視する以外に取るべき道はなかった・・・・。

(続く)
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2005/8/5

ノリノリ伝説外伝 第二話 〜眠れる才能〜  小説

音波は18歳からは地元の専門学校に通っていた。
少子化の一途をたどるこの国にとって、高校を卒業して即就職というパターンは皆無に等しい。
ほとんどが大学に進学するのが通常のパターンである。
が、音波はあえて専門学校を選択していた。というより、こちらも両親の強い説得でなぜか自動車整備関係の専門学校に進学するはめになっていた。
なぜ両親がここまでバイクに固執するのか、音波にはまったく理解できない事だった。
幼い頃から両親がバイクに乗っていたという話は聞いた事もなく、それゆえに、高校3年生まで、バイクにはまったく興味もなく生活してきた。
それが、18歳になった9月、突然に両親がバイクの話をし始めて、しかも自分が進学する道までも半ば強引に決められた感さえある。

ただ、男女雇用均等法が強化されたにも関わらず、相変わらず女性にとっては就職するということは厳しいものであり、
手に職とつけるという点では、まんざら整備士の道も悪くはないかもしれない。但し、女性向けの仕事ではないのだが。
整備士専門学校というくらいだから、女子学生は極端に少なく(0ではない)、逆に男子学生側から見れば、男子ばかりだと思って入学してきているので
そこに現れた数少ない女子学生というのは、天使以上の存在に思えたことだろう。
元々両親の身長も高く、その遺伝子を受け継いだ音波は、身長:170cm 体重:48kg というスタイル抜群な容姿だった。
両親に似なかったところは、運動神経が抜群に良かったところだ。走ることから泳ぐことまで、少なくとも学校単位ではかなり上位に位置していた。
勉強に関しては「並」であったが、それも、まったく自宅での勉強をやらない状態での成績である。

この専門学校においてはアイドルとなるには十分な資質の持ち主だった。
それ故に言い寄ってくる男子学生の数も半端ではない。
音波の携帯電話には、休み時間になる度にひっきりなしにメールが受信される。もちろん、放課後のデートの誘いだ。
もちろん、音波も年頃の女の子である。聞かれれば、誰かれと選択することなくメールアドレスは教えていたし、いいなぁと思った男性とは
それなりにデートもしていたが、ビリヤード、ボーリング、その他、デート中に行われた少しでも勝負ごとが関わる事になると、
一切の手抜きをしない音波は、持ち前の負けず嫌い+運動神経の良さに、全てにおいて圧勝してしまう始末である。
もちろん、男子のプライドはズタボロとなり、次回からはデートの誘いはなくなる。そんなパターンが続き、結果、まともに付き合っても1ヶ月ももたないというありさまである。

当の音波は、男性への理想像が非常に高く、女性には珍しく、「男性は内面から」などという半端な条件など絶対に口にしない女の子であった。
グループで遊びに行き、一緒に行った男の子に

男A:「ねぇ、音波ちゃ〜ん、好きな男性のタイプは?」
音波:「そうねぇ・・・ジャニーズα系のスッキリした顔立ちかな」(ジャニーズαとは、「ジャニーズ事務所」が新規に立ち上げた事務所で、俳優専門の事務所である)
男A:「へぇ〜、じゃ性格的には?」
音波:「性格?そんなの会ってみなきゃ分らないからどうでもいいよ」
男A:「(え・・・)いや、それでもさぁ、優しい男性とか、男らしいとかないの?」
音波:「無い!!!強いて言えば、勝負事で私に負けない男かな」
男A:「・・・・・」
音波:「あ、一つあった!人の名前を『ちゃ〜ん』とかって呼ばないやつ(微笑)」
男A:「(終わった・・・・)」

そう、音波は「男性はまず見た目から」という女性には珍しいタイプだったのである。

なにをやってもナヨナヨしているこの田舎専門学校の男子生徒に、音波は次第に興味を持てなくなった。
そんな理由もあってか、どちらかと言えば好きではなかった勉強に対しても割りと熱心に励んだ。
バイクに関する知識も増えた。この専門学校の特色として、在学中はバイクを一台自分の物として支給される事になっており、そのバイクは
自分の物として何に使っても良いという事になっている。但し、整備、修理は自分持ちである。

音波は、その運動神経の良さをいかして、バイクの運転の方の腕もどんどん上がっていった。
学校の敷地内にあるミニサーキット(500m/周)におけるタイムアタック実習に際しては、全校生徒150人中で、5位という好成績を収めた。
ちなみにこの時、音波よりも上位に位置した男子生徒は、全員がレーサー志望の様な連中であり、学校から支給されたバイクを自分でレーサーに
カスタムした特別仕様マシンである。比べて、音波のマシンは、整備はしっかり行われていたものの、仕様はまったくのノーマルである。
それでもレーサー仕様とのタイム差は僅か0.2秒だった。
後に音波が卒業論文のテーマとして作成した「サーキットにおけるタイム理論」は、学校の教師すらも唸るほどの内容でだった。

その才能と理論からレーサーへの進路も紹介された音波だったが、当の本人はまったく興味がなく、かといって整備士免許は取ったが、
整備士になる志は入学当時から低かったので、まったく普通の会社に事務員として就職することになった。
レーサーへの進路を勧められた事に関しては、音波は両親には告げることはなかった。
免許取得を勧められた辺りから、バイクの事に関して妙に積極的になった両親に、音波は少なからず不信感を抱いていた。

「父さんはともかく、なんで母さんまであんなに熱心なの?普通、母親はバイクなんて反対するはずなのに・・・」

ゆえに、レーサーへの進路の事など話そうものなら、専門学校進学の時のように強引に自分の進路を決められかねない。
バイクに乗ることも好きになった。速く走る事にも興味もあるし、仲間内での模擬レースも散々やった。
しかし、職業レーサーにはどうしても興味を持つことができなかった。

ただ、バイクそのものは趣味としては非常に気に入っていた為、在学中からバイト三昧でバイク貯金にいそしんでいた。
卒業する頃には最新マシンが1台買えるくらいの貯金が貯まっていた。

就職して数ヵ月後、音波は自宅近くのバイクショップ「ブルーマウンテン」をたずねた。
2025年においては、女性ライダー自体が珍しいものではなく、軟弱化した男性ライダーがATSS(オートマチックスーパースポーツ)に逃げている
現状に比べれば、この時代における女性ライダーも非常にアグレッシブであり、好んで通常ミッションバイクを選択するのが大半だった。

音波も当然のように通常ミッションタイプのバイクを購入した。

ヤマハ:YM−400RR ソニック

馬力:130ps、車重:120kg


店長:「最初はもう少し乗り易いバイクにしたらどう?」

音波:「(うるさい店長だなぁ)ん〜、でも買い換えることを前提に買うってのもどうかなぁ・・・」

店長:「そうですかぁ・・・。まぁ、乗りたいバイクの乗るのが一番いいからね。じゃあ、これにサインを・・・」

そういって差しだれた契約書の迷わずサインをし、支払いは?と問われて現金で!!と即答した音波に、さすがの店長も驚いた表情を見せていた。

店長:「(最近の若い子は金持ってんなぁ)じゃあ、納車は1週間後には可能だのでまた連絡します」

最初の一言で頭がキレ気味になっていた音波、愛想笑いの一つも見せずに、契約書の控えを受け取ってスタスタと出て行ってしまった。

店長:「まったく愛想の一つもない子だなぁ。コワイ、コワイ・・・え〜と、名前は・・・!!!!!」

その契約書に書かれた名前と住所に、ブルーマウンテンの店長は契約書をしばし見つめた。

「鈴木 音波   住所:志太市・・・・・・・」

この名前と住所、そしてどことなく見覚えのあるルックス・・・・。

店長「そうか・・・・」

店長は店の外に出た。夜空に光る月を見ながら、おもむろにタバコに火をつけ、何かを思い出すようにゆっくりとタバコを吸った。
国道と通る車のヘッドライトに、店長の左胸に付けられたネームプレートが照らし出された。

         「店長:志井部」

こうして、音波の本当のバイクライフは幕を開けていくこととなる。
(続く)
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2005/8/3

ノリノリ伝説外伝 第一話  小説

2005年、9月。藤枝市のとある一区画で彼女はこの世に生を受けた。名前は「音波(おとは)」。
母親が過去に音楽をやっていたという事にちなんで名づけられた彼女は、その後、両親の愛を一心に受けて、すくすくと育っていった。

2025年、9月。音波は20歳になった。

20年という月日は、一見、科学を著しく進化させたかのように見えるのだが、
実際には、乗り物という乗り物は、いまだに地面に接地していなければならず、
杞憂されていた石油問題も、実際には枯渇する事なく採掘されていた。
ただし、燃料問題自体はそれなりに深刻ではあった。
ゆえに、4輪メーカー、2輪メーカー供に、ガソリンと電気による発動機システムの開発に血眼になっていた。
20世紀末には4輪に関しては既にハイブリットカーが市販されていたが、
2輪に関してはバッテリーの問題がネックになり、遅々として開発は進まなかった。
そこで、各メーカーは、無理なハイブリット化よりも、小排気量、高出力、低燃費の三点をキーワードにおいて開発を進めていた。

科学の進歩の流れを見ればわかるように、大きな物はより小さく、大エネルギーを必要とするものはより少ないエネルギーで効率良く。
それが科学や技術の進歩であるはずだった。
しかし、こと市販される乗り物についてはこれは当てはまらない。マーケッティングという壁があるからだ。
技術的にはそうであっても、エンドユーザーが求めるものは、より大きく、より過激に、より速く・・・。
その結果、21世紀に入っても、バイクに関しては依然1000ccを越え、しかも重量は160kg台というスペックが求められた。

分岐点は2007年だった。バイクの最高峰レースのmoto−GPのレギュレーションが1000cc→800ccに引き下げられた事から始まる。
安全面から行われた変更だったが、これが同時に、大排気量車の無意味さを露呈してしまった事となった。
2007年、この年は、かつて2ストから4ストにGPが移り変わった初年度同様、1000ccと800ccが混走でGPを争う。
それまで無敵を誇ったV・ロッシは、ドカティに移籍していたが、開発が遅れていた800ccでのマシン参戦をドカティは見送る。
これによりロッシは1000ccマシンでの参戦となったのだが、それまで天才という名を欲しいままにしたロッシにとっては対したハンデにはならないと思われた。
だが、この予想はまったく外れることとなる。
この年、カワサキは800ccマシンを投入。しかもライダーには無名の日本人を抜擢した。
「カワサキは既にGPから撤退するつもりだ」
無謀なチャレンジにそんな噂さえ囁かれたが、いざ開幕したGP。そこにいる誰もが目を疑った。

16戦9勝。

これがこの年のカワサキの成績である。この9勝はこの無名日本人ライダーが全てあげたもので、
カワサキに初のシリーズチャンピオンをもたらした。

ロッシをもってしても勝てなかった。

この事実は衝撃的だった。もはや大排気量、高出力の時代は終わった。同じエンジン出力であるならば、軽くて小さい方が有利なのは
エンドユーザーでも分ることである。
程なくして、この流れは市販車ベースにもフィードバックされていく。
各メーカーは一斉にリッタースポーツバイクの開発を取りやめ、過去に行われた大排気量戦争の逆をたどる小排気量戦争へと突入していった。

2015年、この流れはとどまることを知らず、市販車ベースの最高峰レースWSBはこの年が最後のレースとなった。

2020年、各メーカーが大排気量車を生産しなくなったことにより、日本の免許制度から大型自動二輪制度が廃止となった。

2023年。18歳になった音波は両親の薦めもあり、バイクの免許を取得することとなった。
しかし、彼女自身、バイクに特に興味があるわけでもなく、なぜ両親がバイクを薦めたのかの意味さえ分らなかった。
嫌々ながらも教習所に通いだした音波だったが、通った教習所の教官が全て端正な顔立ちで高身長のハーフ。
教習自体は楽しいものではなかったが、教習後の教官とのミーティングについては楽しいものだった。

追加教習を受けること無く、音波は免許を取得した。ちなみに検定試験において減点無し合格は、この教習所始まって以来の事だった。
意気揚々と自宅に戻り免許の取得を両親に報告する音波。

「減点無しは初だって!!すごいでしょ〜」

得意満面に免許を見せびらかす音波。

「免許なんて取ってしまえば皆いっしょなのよ。大事なのはこれからなんだから」

諭すように音波と話す母親だったが、音波はこれが気にいらなかった。
元来勝気で負けず嫌いな音波は、母親にかみつくような勢いで

「そんなこと言ったって、母上はバイクの免許だって持ってないじゃん!!何にも知らないのに偉そうな事言わないでよ」

音波は母親とケンカ口調で話すときに、「母上」と嫌味を込めて言う癖があった。

(せっかく満点合格だったのに。ちょっとくらい誉めてくれたっていいじゃん。)

元々バイクを薦めてきたのは両親なのに・・・そういう思いがあっただけに、この母親の言動には過剰に反応してしまった。
キッチンを出て行く音波を、母親は何も言わずに見送った。口元にはかすかではあるが、微笑みを浮かべて・・・。

「なんだ、またケンカしたのか?」

風呂上りの音波の父親が、クスクスと笑っている自分の妻に向かって話しかけた。

母親:「まったく誰に似たんでしょ〜ね〜?」

父親:「そりゃ、おまえにだろう。なんで{バイク}なんか薦めたんだ?」

母親:「ちょっとまってよ!あなたが免許取らせろって言ったんじゃないの!!」

父親:「・・・そうだったかな。まぁ、「蒼野」さんの娘さんも免許取ったんだろ?負けるわけにはいかないだろ?」

母親:「そうね。20年前は「蒼P」には負けっぱなしだったわね。」

父親:「(蒼野さん、もう50歳だよな。50歳でP呼ばわりはないな)そうそう。復讐するは我にあり、ってね。」

母親:「(クス)自分で勝負すればいいのに。勝てないからやらないんでしょ〜」

音波がいなくなったキッチンでは、両親が昔話に花を咲かせていた。


(続く)
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