2009/4/21

長安黙示録 第9話  ニョロ現代

-第9話- 「猿」



精錬所の地下は研究施設になっていた。
牢に閉じ込められてから
幾年が過ぎたのか分からない。


施設に連行されてからしばらくは
ただひたすらに猴王を狩る作業を続けた。
斬っては投げ、斬っては投げの繰り返し
生きてる心地がしなかった。


殺した猴王の死体から物質を取り出す
この施設の所長巴下は、表向きは研究者である。
しかし、裏の顔はそうではない。


猴王から取り出される軟玉は
エネルギー資源として他国へ輸出されるが
単なる資源以外としても使用方法がある。


軟玉の主成分は猴王の体内に蓄積された
メタンが結晶化したものであり
メタンハイドレート同様にエネルギー物質として
近年注目されている。


しかしこれだけでは施設の運営は成り立たない。
その物質は、メタンの結晶で硬く包まれた
中心に存在する。ガイガーメーターを壊す程の
強い放射線を発生する物質である。


その物質こそ、和田の街を
煌びやかな街へと発展させた物なのだが
街の人々は知るはずもない。


宮殿地下で核物質が抽出されているなど
想像すら出来ないだろう。
知っているのは所長を含めた施設関係者


と、もう1人




「いい加減、良い返事を聞かせてくれないか」
所長は、まったく心変わりしないこの男に
呆れると同時に畏怖の念を感じた。


「何度でも言うが、断る」
墓場と言われるこの地下施設で幽閉され
数年の月日が流れようとしているが
男の気持ちは変わらなかった。


その男の名は孫玄
幼い時に病気で片目の視力を失い義眼だが
彼と向き合うと、その目に「猿」の刻印が
青白く光るのであった。


「その義眼は誰によって作られたんだね」
所長の関心は孫玄の義眼にあった。
青白く光る孫玄の義眼、それは
彼が聖闘士になった時に授かったものである。


「知らないものは 知らない」
孫玄は答えない。
「せめて研究のために分析を・・・」
「断るっ!」


青白く光るその義眼こそ、所長が追い求める
常温核融合技術であり
膨大な利益が期待できる代物だった。


「どうしても駄目か ならば・・・」
所長が牢を出て行った。
黒服と何やら話している。
数人の黒服が牢の前で銃を構えた。


「非常に残念だよ・・・孫玄君」
所長は悲しい目をしながら
アルミ製の階段を登り始めた。


「やれ」
所長の言葉と同時に発砲音が響いた。
硝煙の臭いが地下牢に充満する。


ぐったりとした孫玄を
数名の黒服たちが見下ろしている。


その様子をコントロールルームで
モニター越しにみている女性も
聖闘士の一人である。


正確に言うならば
聖闘士だったになるが。


-第9話- 完


「ニョロ現代」4月21日号掲載
著者:谷野伯爵
2

2009/4/7

長安黙示録 第8話  ニョロ現代

-第8話- 「羊」



姫が連れ去られてから1週間が過ぎた。
あの事件以来、様々な噂が街で囁かれた。


「身代金目的の誘拐だ」とか
「三角関係のもつれに決まってる」とか
「後継者問題がこじれた」とか
「プミポン国王の嫁として選ばれた」とか
「姫も内定取り消されたらしい」とか
全て人々の憶測なのだろうけど。


蛇爺は長安に残った聖闘士に
普段の生活に戻るように伝えた。
郭威と馬軒は蛇爺に連れられて
敦煌という街へと向かった。


「ねぇ小七さん」
「ん?」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・」


珊珊は我慢していたけれど
はっきりしておきたかった。


「あの人たち・・・何者なの?」
「彼らは古い友人さ」
「ほんとにただの友人?」
「うん」


珊珊の心にはまだ
モヤモヤしたものが残っている。
けれど、今一歩踏み込めない。


「小七さんもだけど、んと・・・」
「普通じゃなかったかい?」
「えっ?! それは・・・」
「君を巻き込んでしまってすまなかった」


突然の謝罪に珊珊は驚いた
と同時にやはり何か隠していると思った。
それもそのはず、あの人間離れした動きは
明らかに一般人ではなかった。


「僕たちは 昔軍隊にいたんだ」
「そうなんだ・・・」
「そこで知り合った仲間たちなんだよ」
「王牛も?蛇爺も?」
「そうだね」
「じゃぁあの姫を連れ去った犯人は?」
「それは・・・」


小七の顔が曇っている。
聞いてはいけなかったかなと
珊珊は少し後悔したが小七が話し始めた。


「彼も仲間だった 同じ軍隊のね」
「やっぱりそうなんだ」
「実はね・・・私も彼に見覚えが・・・」
「えっ?」


珊珊がまだ警察学校にいた当時
乗馬訓練の指導教官をしていたのが
姫を連れ去った犯人であり
元聖闘士の馬千里だった。


「そうだったのか」
「うん あれは教官に間違いないわよ」
「あぁ 確かに馬千里だった」
「まさか教官があんな事を・・・」
「僕も信じたくないけどね」


お互い昔の思い出を振り返り
先日起きた事件を信じられずにいた。
だが・・・


「おぉ〜い 肉まんできたぞぉ〜」
王牛はいつもと変わらない。
事件のことなど忘れてしまったのだろうか。
拘束期間も過ぎて、今は小七と一緒にいる。
大食いで困るが・・・


「悩んでも仕方ない ご飯にしよう」
「そうだね 私もおなか空いちゃった」
「俺もおなか空いた〜」
「お前はいつもだろっ!」
「アハハハ」




長安から南西へ数キロ
周虎はイライラを抑えていた。
「まだかよっ!」
「まぁ待て待て そう慌てるな」


ここは飛賊の砦
今周虎がイライラしながら待っているのは
西幅という男で、今は交易所で働いている。


「お前は昔から準備が遅い!」
「馬鹿っ!何か不備があったらどうする!」
「あぁ〜もぅこの神経質めっ!」


「羊」と書かれた鎧箱から
ゴソゴソと装備を取り出している男は
平穏な日々の別れを惜しみながら
幾度も自分を守ってくれた鎧を
入念に準備していた。


周虎は更なる仲間の召集に向かう
兎からの伝令は空振りが多いようだ。
まぁ素性を隠しているから仕方ない。


「次はあいつか・・やっかいだな」
周虎は次に会うであろう人物を思い出し
にがい顔をした。


「猿か・・生きてるのか」
「分からん だが行くしかない」
周虎と西幅は歩き始めた。


戦いは戦いを呼び
正義あるところに必ず悪がある
墓場で蠢く黒い影が
徐々に大きくなっていることを
聖闘士たちは知るわけもなかった。


-第8話- 完


「ニョロ現代」4月7日号掲載
著者:谷野伯爵
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